夢と文化を運んだ北前船の面影　～北前船と美浜町～

北前船とは？

北前船は江戸時代の中頃から明治30年代まで、日本海回りで北海道と大阪を往復しながら商いを行っていた商船の総称です。

北前船はただ積み荷を運ぶ船ではなく、運んだ積み荷を商品として売り買いすることで利益を得ていました。

ある寄港地で安く買った商品を、別の寄港地まで運び高く売ることで、船主たちは一攫千金を得ることが出来ました。しかし、仕入れた商品が売れなければ逆に損失を被るのはもちろん、万が一船が沈没や遭難すれば商品のみならず、船も乗員の命もすべて失われる可能性があるハイリスクハイリターンの航海でしたが、多くの船乗りたちが帆船で海に繰り出したのです。

また北前船は経済のみならず、文化にも日本各地の文化にも大きな影響を与えました。代表的な例をあげると、北前船によって北海道からもたらされた昆布によって西日本で昆布だしを使った食文化が生まれるなど、北前船は商品とともに文化を運びました。

　北前船模型船（美浜町歴史文化館）

 

北前船と美浜町

早瀬、久々子、坂尻など日本海若狭湾に面した集落からも北前船が出航しました。

特に早瀬には多くの船主が住し、大小含めて数多くの北前船を所有する当町内きっての寄港地であり、経済的に大変豊かな集落として繁栄しました。

美浜からは特産の油桐の実「ころび」を絞った油や、肥料として価値の高かった干鰯（ほしか）、そして米や小豆、素麺などの食べ物が運ばれる一方、縁起の良い魚とされたシイラの他、鯖や小鯛などの塩干物から、鉄や焼物といった様々な物品が北前船によって美浜にもたらさています。

また、船を持っていない場合も、船員として雇われ敦賀などから北前船に乗船した人々もいました。

町では現在、文化庁が地域の歴史的魅力や特色を認定する“日本遺産”の北前船ストーリー「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間　～北前船寄港地・船主集落」への追加認定を目指し、北前船に関係する歴史・文化財の再発見に取り組んでいます。

 

早瀬に残る北前船の面影

日吉神社・蛭子神社

日吉神社は早瀬に鎮座しており、船絵馬や北前船を模したと考えられる模型船など、氏子であった北前船主が海上安全などを願い奉納されてた文化財が伝来しています。

また日吉神社および早瀬の村内で祀られている蛭子（えびす）神社の常夜燈が、夜の海上に浮かぶ北前船が早瀬の位置を見失わないための目印となっていたと考えられます。

　日吉神社

　蛭子神社　常夜燈

 

(1)子供歌舞伎・曳山

子供歌舞伎は日吉神社の神事であり、口伝によれば江戸時代にコレラの流行を封じるために始まったとされており、山車を舞台として子供たちが歌舞伎を披露します。

現在の山車は安政6年（1859）に北前船主を含む早瀬の村人が資金を工面し、新調されたことが記録に残っています。

(2)水無月祭・神輿

子供歌舞伎と同じく日吉社の神事で、御神体を移した神輿が船に乗り海を渡ります。天保6年（1835）に奉納され神輿に祀られる御神鏡には願主として北前船主「石橋与一」の名が記されており、また幕末と伝えれれている神輿自体の建立にも船主が関与した事が想定されます。

千歯扱き

千歯扱きは江戸末期から大正時代にかけて早瀬の特産品であった脱穀器であり、性能の高さから需要を得て、東北など日本全国に販売網がありました。

その製造には材料である鉄の調達が必要であり、また製造した千歯扱きの輸送には海運が用いられたとみられることから、その産業の発展には北前船 の存在が欠かせないものであったと考えられます。

　　千歯扱き（美浜町歴史文化館）

丹生の船絵馬

美浜町丹生の龍渓院に伝来した3点の船絵馬は、北前船の船乗りによって金毘羅神社に奉納されたもので、乗船した船の名と奉納された年号が記されています。

中でも享和 2 年（1802）の記年がある絵馬は、現在町内で知られている北前船に関わる資料の中で最も古いものであるとともに、福井県内における船絵馬の中でも最古級です。

　享和丸船絵馬　享和 2 年（1802）（美浜町歴史文化館）

 

これらの他にも北前船と美浜町に関連する資料が所在しています。

また町外では、若狭町に鎮座し美浜町内に多くの氏子を有する宇波西神社に、久々子で北前船やうなぎ販売により富を築いた川渡甚太夫が納めた奉納船や早瀬の船主石橋与一が奉納したと考えられる狛犬が伝来するなどしています。

 

美浜町内の北前船に関係する主な文化財

美浜町の主な北前船関連資料 [PDFファイル／147KB]